そっとその人を抱きしめた・・・

一昨日、そんな事があった。

その彼女は大切な人を失ってしまった。
恐らくは彼女が自らで生み出した不安や嫉妬・我が侭な想いなどで彼の心が折れてしまったのだ。
もちろん、彼女だけに非があるわけではなく、恋愛というのはすべて二人の責任であり、二人だけのものなのだ。
予想通り、彼女は打ちのめされ、失意の底にあった。
僕はそっと背中を押し、彼ともう一度話しをする機会をなんとか持つコトに成功した。
そして納得はしないまでも『別れ』を受け入れた彼女は恍惚としていた。
少し寒い秋空の映るベランダで彼女は堰を切った様に涙を流した。
涙を流し、悲しみに浸らないと割り切ることなどできないのだ。

僕はなにも言わない。

そしてそっと彼女を抱きしめた。

こういう瞬間、変わりになれればどんなに彼女を救えるのだろう・・・と自問自答をする。
しかし、僕は何も言わない。
身代わりの恋愛は何も生まないことを僕は知っている。そしてそれは彼女も知っている。

あの時、空に映った夕日の色は僕はきっと忘れないだろう。
ただそれだけのこと。